その1
父が亡くなる前後、私は12日間実家にいた。
実家のトイレは娘婿が「最新式だ」と驚くくらい至れり尽くせりで、トイレに続く廊下は人の気配を感じて天井のライトがつき、トイレもドアを開けると自動でライトがつく。自動で便座の蓋が開き、用が済むと自動で流れて蓋が閉まる。蛇口に手を差し出すと水が出て洗い終わると止まる。トイレも廊下もライトは自動で消える。トイレの電気の消し忘れなんてことはあり得ない。
人間て、慣れる生き物なんよ。
12日間、そんな生活を送って自分の家に帰ると、トイレのドアを開けて「あれ?電気・・・。あ、そうか」とスイッチを入れなあかん。蓋も自分で開けなあかん。終わったら自分でレバーで流して自分で蓋を閉めなあかん。つけた電気は消すのを忘れる。
慣れるって怖いわ。
その2
田舎で、どこかの家に車がたくさん止まっていると、葬式か法事らしい。実家の近くの空き地は、ご多分に漏れす葬式の日も四十九日法要の日も、関係者の車でいっぱいだった。
四十九日法要の日、そこに一台の黒いベンツ。
みんな横を通りながら「あ、ベンツだ」「ベンツだ」と小声で言う。都会ならいいけど、熊や鹿のほうが人間より幅を利かせている山奥で黒のベンツ・・・。
目立ちすぎる。
姪夫婦が義父から借りて乗ってきたのだけど(義父から使っていいよと言われたらしく、会社名義のものかも知れない)、乗り慣れない車で姪はゲロゲロに酔って、お腹までキュルルルルってなって、着くなりトイレに駆け込んでいた。
「この車に乗っていると、みんなが道を譲ってくれるしええわぁ」と普段は軽に乗っている姪。
でもね、田舎には黒のベンツでは来んといて。